契約

契約
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契約(けいやく)は、相対立する意思表示の合致によって成立する法律行為である。その結果、当事者の双方又は一方の他方又は第三者に対する債務(一定の行為をする法的義務の一種。債権も参照。)が発生する。異なる利益状況にある者が相互の利益を図る目的で一定の給付をする合意をした場合にそれを法的な強制力により保護するための制度である。なお、契約の成立と同時に物の引渡しが行われる現実贈与や現実売買の法的構成については議論がある。



契約の種類


典型契約・非典型契約


日本の民法は、典型的な契約の類型として、13種類の契約を規定している(これらを典型契約、あるいは、民法に名称があることから有名契約と呼ぶ。)

贈与
売買
交換
賃貸借
雇用(雇傭)
請負
委任
寄託
組合
終身定期金
和解

民法は典型契約以外の契約類型の存在も許容していると解されており(契約自由の原則)、こうした典型契約以外の契約類型を、非典型契約、あるいは民法上に名称が無いという意味で無名契約という。

なお、複数の典型契約の要素を併せ持つ契約や、典型契約の要素と他の非典型契約の要素を併せ持つ契約は混合契約とも呼ばれる。

双務契約・片務契約


双務契約とは、契約によって当事者の双方がお互いに対して債権をもち、債務を負うものをいう。売買契約を例にとると、売主は買主に対して商品を引き渡す義務(債務)があり、買主は売主に対して代金を支払う義務(債務)がある。よって売主と買主の双方がお互いに債務を負っている(債権を有している)ため、売買契約は双務契約であるといえる。その他、賃貸借、請負、有償の寄託、有償の委任、雇用なども双務契約である。

片務契約とは当事者の一方だけが相手方に対して何らかの債務を負っている契約を言う。例えば贈与契約であれば、贈与をする者は物を相手方に引き渡す義務を負うが、物をもらう側の人間には何の義務もない。よって贈与契約は片務契約ということになる。この他にも、使用貸借、消費貸借、無償の寄託、無償の委任が片務契約の例である。

諾成契約・要物契約


諾成契約は、当事者の合意だけで、契約目的物の交付を必要とせず成立する契約。売買・賃貸借などのほとんどの契約。

要物契約は、当事者の合意だけでなく目的物の交付とによって成立する契約。消費貸借・使用貸借・寄託のみがある。

有償契約・無償契約


有償契約とは、契約の当事者が互いに対価的な支出を伴う契約。双務契約は有償契約であるが、片務契約でも有償契約のものがある。具体的には、利息付消費貸借契約は契約成立に貸主の貸出行為が必要なため、契約成立後は貸主は債務を負わないので片務契約であるが、対価的な支出を伴うので有償契約である。

無償契約とは、契約の当事者が互いに対価的な支出を伴わない契約。片務契約のほとんどが無償契約である。

要式契約・不要式契約


要式契約とは、契約の成立に一定の方式を必要とする契約。

財産行為における契約においては、契約自由の原則(具体的には契約の方式の自由)が強く妥当するので要式性が要求される契約は一定の場合に限定されることとなる。民法は保証人の意思を慎重かつ明確なものにするという観点から保証契約につき要式契約としている(保証契約については平成16年民法改正により446条2項で要式契約とされることになった)。

これに対し、身分行為においては当事者の慎重な考慮とその意思の明確化、さらに第三者に対する公示などが必要とされるので、そのほとんどが要式契約である(婚姻や養子縁組などは届出を要する典型的な要式契約である)。

不要式契約とは、契約の成立に何らの方式をも必要としない契約。ほとんどの財産行為の契約は不要式契約である。

一時的契約・継続的契約


一時的契約とは、一回の給付により契約内容が実現される契約である。通常の売買契約などがこれにあたる。

継続的契約とは、一定期間にわたり給付が継続されることにより契約内容が実現される契約である。賃貸借契約や継続的売買契約などがこれにあたる。

契約の成立


契約は当事者の申込みと承諾の合致によって成立し、これが基本的な契約の成立形態である。このほか変則的な契約の成立形態として交叉申込と意思実現がある。

申込みと承諾の合致


契約は、当事者間の申込みと承諾という二つの意思表示の合致によって成立する。例えば、売り手が買い手に対して「これを売ります」と言うのに対して買い手が「では、それを買います」と言えば両者の間で売買契約が成立する。日本法においてはこのように意思表示だけで契約が成立する諾成主義が原則である。これに対し、契約成立のためには一定の方式をふまなければならないという考え方ないし規範を要式主義という(例えば、保証契約は契約書がなければ成立しない、など)。

民法には申込みと承諾に関する規定があるが、主に離れた場所にいる者同士が手紙などのタイムラグが生じる方法によって契約する場合を念頭に置いている。

  * 申込み(当事者の合致する意思表示のうち、先になされたもの)

  承諾期間の定めのある申込(521条)

      期間内は、申込を取り消すことが出来ない。
       申込者が期間内に承諾の通知を受けないときは効力を失う。

  承諾期間の定めのない申込(524条)

      申込者が承諾の通知を受けるに相当な期間は撤回することが出来ない。

  * 承諾(申し込みに応じて契約を成立させる意思表示)
   * 成立時期

  通説は、隔地者間の承諾期間の定めのない申込みに対する承諾は、発信時に成立するとしている(526条1項)。

交叉申込


交叉申込とは契約の当事者が偶然に相互に内容の合致する申込みをなすことをいい、この場合にも当事者間の意思表示の合致が認められるから契約が成立する。

意思実現


意思実現とは申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立することをいう(526条2項)。意思の実現ともいう。

契約の履行


契約が有効に成立すると、当事者はこれに拘束され、契約を守る義務が生じる。契約により生じた債務を、債務者が任意に履行しない(債務不履行)ときは、債権者は、訴訟手続・強制執行手続を踏むことによって、債務者に対し強制的に債務の内容の実現を求めることができる(強制履行、現実的履行の強制)。また、債務不履行が発生した場合、債権者は、契約の解除をしたり、債務者に対し損害賠償請求をすることができる。

債務不履行の内容としては、約束の期限までに品物を届けなかった(履行遅滞)、品物を壊してしまって債務を履行できなくなった(履行不能)、品物を引き渡したものの欠陥があった(不完全履行)の3類型が挙げられる。

契約の効力


契約の当事者は、契約によって発生した債権を行使し、債務を履行する。民法などの規定と異なる契約をした場合でも、その規定が任意規定である限り、契約の内容が優先する。「契約は当事者間の法となる」といわれるゆえんである。

契約はただの合意・約束とは違って、裁判を通じてその内容を強制的に実現することができる(強制執行などを参照)。 また、契約に違反すれば、契約に規定された違反時の責任(違約金など)が生じるほか、民法上も債務不履行責任や、場合によっては不法行為責任を負うこともある。

民法には契約の効力という款をおいているが、実際上「契約の効力」の問題とされる事柄はつまるところ「債権の効力」の問題なのであって、債権総則の章において規定されている。そして、債権総則では包含しきれないような契約関係(特に双務契約)独自の規定を契約の効力の款においている。特に双務契約については、対価的関係にある債権債務の牽連関係について以下の3つの規定をおいている。

  * 成立上の牽連性 - 原始的不能
   * 履行上の牽連性 - 同時履行の抗弁権(533条)
   * 存続上の牽連性 - 危険負担(534条)

契約の無効・取消し


契約は、公序良俗に反する場合(90条)や、強行法規に反する場合(91条)、無効となる。契約を構成する申込み又は承諾が無効である場合(93条ただし書など)も、「その契約は無効である」と表現される。同様に、契約を構成する申込み又は承諾が取り消された場合(96条1項など)にも、「その契約は取り消された」と表現される。意思表示の有効性と契約の有効性を区別する意味がないため、このような用語法の混乱が生じている。

契約の解除・解約


契約は解除することによって終了することができるが、契約が解除される場合には大きく分けて二つある。
一つは当事者の片方が一方的に契約を解除する場合であり、通常「解除」といえばこちらを指す。このとき、解除契約を一方的に解除する権限(解除権)が法律の規定によって一定条件(例えば債務不履行など)のもと発生するものを法定解除権といい、契約などで定めた条件に従って発生するものを約定解除権という。
上記の意味の解除については、講学上、遡及効を有するものを「解除」、有さないものを「解約(告知)」と分類することがあるが、民法の法文上はともに「解除」である。もう一つの解除は、契約の当事者で話し合って契約をなかったことにする合意解除である。合意解除も「契約をなかったことにする契約」という一つの契約である。

解除も参照

  * 債務不履行
         o 履行遅滞(541条)
         o 履行不能(543条)
         o 不完全履行(543条)
   * 原状回復義務(545条)
   * 担保責任追及
   * 合意解除

三者間の契約

  * 三面契約

        それぞれ独自の主体的立場の異なる三人の当事者の間で成立する契約。

  * 第三者のためにする契約(537条)

        契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約する契約。

商法における契約


  * 対話者間における契約の申込み(商法507条)
   * 隔地者間における契約の申込み(商法508条)
   * 契約の申込みを受けた者の諾否通知義務(商法509条)
   * 契約の申込みを受けた者の物品保管義務(商法510条)

  商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、その申込みとともに受け取った物品があるときは、その申込みを拒絶したときであっても、申込者の費用をもってその物品を保管しなければならない。

行政における契約


行政主体(国や地方公共団体がその典型例)が結ぶ契約のことを特に行政契約と呼ぶ。

行政主体が私人との間で結ぶ行政契約の例は多岐に及ぶが、公共施設を借りたり、補助金の交付のさいの贈与契約や、公共事業の請負、水道の給水、なんらかの協定を結ぶ場合などが挙げられる。

また行政主体同士で結ばれる契約も行政契約の一つである。

行政契約も契約の一種だが、行政主体がその当事者であるため特殊な考慮が必要となる場合がある。例えば、本来ならどのような契約を結んでも良いのが原則であるが(契約自由の原則)、行政主体に権力的権限をあたえるような契約は制限される。さもなければ権力的な行政作用は法律に基づいて行われなければならないとする「法律による行政の原理」が骨抜きにされかねないからである。さらに、合理的理由のない差別的な取扱いについても禁じられると考えられている(平等原則の適用)。また、本来ならば契約を結ぶか否かも自由なはずであるが、水道などの契約においては契約を締結する義務が課されている場合もある。

判例

  * 取立命令に基く取立請求 (最高裁判例 昭和48年12月20日)
   * 売却処分無効確認等(最高裁判例 昭和62年05月19日)

        普通地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約は、当該契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法令の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効となる。

  * 給水契約上の地位確認等 (最高裁判例 平成11年01月21日)
   * 損害賠償請求事件 (最高裁判例 平成16年07月13日)

地方自治法


契約の締結(234条)

  * 一般競争入札
   * 指名競争入札
   * 随意契約
   * せり売り

  • 最終更新:2009-05-13 15:18:12

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