(最判昭44・3・4民集23-3-561)


事件番号 昭和41(オ)611
事件名 損害賠償請求
裁判年月日 昭和44年03月04日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第23巻3号561頁

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 昭和41年03月07日

判示事項 代理受領を承認した債務者が当該債務を本人に支払つた場合に不法行為の成立が認められた事例
裁判要旨 甲の乙に対する手形金債権を担保する目的で、乙が丙に対する請負代金債権の代理受領を甲に委任し、丙が甲に対し右代理受領を承認しながら、請負代金を乙に支払つたため、甲が手形金債権の満足を受けられなくなつた場合において、丙が右承認の際担保の事実を知つていたなど原判示の事情(原判決理由参照)があるときは、丙は、甲に対し過失による不法行為責任を負う。
参照法条 民法99条,民法709条
全文

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人上田明信、同鎌田泰輝の上告理由(一)について。
 所論は、訴外東海航空測量株式会社(以下、東海航空測量という。)は昭和三四年一一月下旬北海道開
発局函館開発建設部(以下、函館開発建設部という。)に対し、訴外Aに対する代理受領の委任を解除した
旨を通知し、右通知によつてAの代理受領の権限は消滅し、被上告人には、函館開発建設部のした本件請
負代金の支払によつて侵害されるべき利益はない旨主張する。
 しかし、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に確定したところによれば、東海航
空測量は昭和三四年五、六月頃Aに対して、東海航空測量の函館開発建設部に対する本件請負代金債権
の受領の代理権を与えてその受領を委任したというのであるから、右認定にかかる代理権授与の契約は、
右委任の契約と一体をなしているものと解すべきである。また一方、原判決によれば、東海航空測量がした
右委任契約を解除する旨の意思表示はその効力を生じない旨判示されており、右原判示も正当として是認
できるのである。そうすると、所論代理受領の権限は消滅することなくなお存続しているものと解すべきであ
り、これと同趣旨の原判決は相当である。右代理権は、函館開発建設部に対する解除の通知によつて消滅
したという所論の見解には賛成することができず、右見解を前提とする論旨は採用することができない。
 同(二)について。
 所論は、(イ)函館開発建設部は、代理受領権者であるAに対して本件請負代金の支払をすることを妨げな
いとともに、東海航空測量に対しても有効に支払ができるのであるから、右支払が被上告人に対する関係で
当然に違法になることはない、(ロ)これを違法として不法行為の成立を認めた原判示は矛盾している旨主張
する。
 しかし、原判決において、原審が挙示の証拠により適法に確定したところによれば、本件請負代金債権は、
被上告人の東海航空測量に対する本件手形金債権の担保となつており、函館開発建設部は、本件代理受
領の委任状が提出された当時右担保の事実を知つて右代理受領を承認したというのである。そして右事実
関係のもとにおいては、被上告人は、Aが同建設部から右請負代金を受領すれば、右手形金債権の満足が
得られるという利益を有すると解されるが、また、右承認は、単に代理受領を承認するというにとどまらず、
代理受領によつて得られる被上告人の右利益を承認し、正当の理由がなく右利益を侵害しないという趣旨
をも当然包含するものと解すべきであり、したがつて、同建設部としては、右承認の趣旨に反し、被上告人
の右利益を害することのないようにすべき義務があると解するのが相当である。しかるに、原判決によれ
ば、同建設部長Bは、右義務に違背し、原判示の過失により、右請負代金を東海航空測量に支払い、Aがそ
の支払を受けることができないようにしたというのであるから、右Bの行為は違法なものというべく、したがつ
て、原審が結局上告人に不法行為責任を認めた判断は正当である。そして函館開発建設部の東海航空測
量に対する支払が有効であるとしても、原審が、右支払のされたことのみによつて直ちに原判示の過失を認
めたものでないことは、原判文により明らかであるから、原判決に所論の矛盾は存在しない。論旨は採るこ
とができない。
 同(三)について。
 原判決挙示の証拠関係に照らせば、所論(イ)の点に関する原審の認定判断は首肯するに足りる。論旨
は、ひつきよう、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用することができな
い。また、Bの過失に基づいて上告人の不法行為責任を認めた原審の判断が是認できることは、右上告理
由(二)について説示したとおりであつて、所論(ロ)は、正当な原判示にそわない事柄を前提として原判決を
攻撃するものであるから採ることができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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  • 最終更新:2009-04-29 12:32:13

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